2024年7月2日火曜日

(ドクター用)アルドステロンブレイクスルー

アルドステロンブレイクスルー

・ACE阻害薬/ARBを開始してしばらくは、アルドステロンの血中濃度は低下する。しかし、投与開始から半年ほど経過すると、アルドステロンの血中濃度が、投与前と同じかそれ以上に再上昇してしまうことがわかっている。この現象を、アルドステロンブレイクスルーという。その機序の詳細は分かっていない。


・頻度は40-50%程度とされ、少なくない。この現象は薬剤服用後6‐12カ月後とされる。しかし、アルドステロンブレイクスルーが起きても血圧や電解質に変化は多くはない。問題になるのは、ACE阻害薬/ARBがもたらす、心血管や腎の臓器保護作用を損なわさせる可能性があること。

・対策としては、(少量の)抗アルドステロン剤(MRA)を追加する、またはARBはオルメテックやアジルバなどを選択する。 


アルドステロンブレークスルー

血圧を調節するホルモンであるレニン-アンギオテンシン-アルドステロンの分泌量が増すと血圧が上がることが知られている。

降圧薬の一部には、このホルモンの働きを抑えて、血圧を下げるものがある。

このうちのアンギオテンシンというホルモンが血圧上昇の最も重要な鍵を握っている。

アンギオテンシンには I と II があり、II はアンギオテンシン変換酵素により I から作られる。

アンギオテンシン II は血圧調節の中心的な働きをしているため、多くの降圧薬はアンギオテンシン II を標的として開発されてきた。

その降圧薬の一つにアンギオテンシン II 受容体 AT1 拮抗薬があります。

この受容体をブロックすると、アンギオテンシン II の作用が減弱するが、この状態が長期間持続するとアンギオテンシン II がアンギオテンシンに変換されなくなるので、アンギオテンシン II の濃度が上昇した状態が続く。

その結果、アンギオテンシン II がアンギオテンシン II 受容体AT2を刺激し、アルドステロンが過剰になる。

いわゆる、アルドステロンブレークスルーと呼ばれており、血圧が上昇するなどの心血管障害を進展させる有害事象が起こる。この事象が生じる頻度は6か月服用で約10%、1年で約53%と言われています。

しかし、アンギオテンシン II 受容体 AT1 拮抗薬のうち、オルメサルタンとアジルサルタンはアンギオテンシンIIをアンギオテンシンに変換するアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)を活性化することで知られており、ACE2がアンギオテンシンIIをアンギオテンシンに変換することで、アンギオテンシンIIの濃度が低下し、アルドステロンブレークスルーが起きにくくなる。

もし、ACE阻害薬/ARBを服用していて最近、血圧の下がりが悪くなったと感じたら、この現象を考慮する必要がある。


アルドステロンブレイクスルーは,Pitt,Struthersらによって提唱された当初エスケープという表現がされ1、最近までそのように使用されてきた。

しかし,そもそもアルドステロンエスケープとは歴史的に別の意味で用いられてきており (アルドステロンを投与した際,最初はナトリウム貯留のため体重が増加するが,長期的には逆に尿中ナトリウム排泄量が増加して体重が正常化すること)、混乱を避けることから最近ではブレイクスルーで統一される傾向にある。


アルドステロンブレイクスルーとは

https://note.com/doctorpooh/n/n2d0cd33cc393


アルドステロン・ブレイクスルー

https://x.com/yo_ku_iyaku/status/1807389692788359289


オルメテックはアルドステロン・ブレイクスルーを起こしにくい

https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/column/yamamoto/201406/536696.html

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RA系抑制薬による長期治療が必要な場合、アンジオテンシンII標的療法とアルドステロン標的療法の早期併用が有効か

https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/jsh2012/201209/526843.html

(要ログイン)

アルドステロン不変は「専門家も予想外の結果」【ROAD-EURASIA】

https://www.m3.com/clinical/news/713529


本態性高血圧症とアルドステロン

https://www.lifescience.co.jp/cr/zadankai/0608/4.html




2024年7月1日月曜日

米内科学会、糖尿病GL「DPP-4薬推奨しない」

 米内科学会、糖尿病GL「DPP-4薬推奨しない」

https://www.m3.com/clinical/news/1206121?portalId=mailmag&mmp=EX240625&mc.l=1042552576&eml=31ef79e7aaf65fca34f0f116a57fd65d

(要ログイン)

米国内科学会(ACP)は4月19日、糖尿病治療ガイドライン(GL)の改訂を発表した。前回(2017年)から7年ぶり。メトホルミン+生活習慣改善を行っても、血糖コントロールが不十分な2型糖尿病患者に対するSGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬の追加を推奨した。一方、DPP-4阻害薬の追加は前回版から一転、「推奨しない」との勧告が示された(Ann Intern Med. 2024 Apr 19. doi: 10.7326/M23-2788. )。


・GRADEシステムを用いて、全死亡、主要有害心血管イベント(MACE)、心筋梗塞、脳卒中、心不全による入院、慢性腎臓病の進行、重篤な有害事象、重症低血糖――の優先順位で評価を行った。


【推奨1】

メトホルミンと生活習慣の改善を行っても血糖コントロールが不十分な成人の2型糖尿病患者に、SGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬を追加することを推奨する(強い推奨、エビデンスの確実性・高)

―全死亡、MACE、慢性腎臓病の進行、および心不全による入院リスクを減少させるために、SGLT2阻害薬を使用する

―全死亡、MACE、脳卒中のリスクを減少させるためにGLP-1受容体作動薬を使用する

コメント;

GLP-1受容体作動薬には「慢性腎臓病の進行抑制、心不全による入院リスクの減少」は期待できない。


【推奨2】

メトホルミンと生活習慣の改善を行っても血糖コントロールが不十分な成人の2型糖尿病患者の罹患率と全死亡率を減少させるために、DPP-4阻害薬を追加することを推奨しない(強い推奨、エビデンスの確実性・高)

コメント;

つまり、DPP-4阻害薬には全死亡率を減少させる効果は期待できない(エビデンスの確実性・高)という強いメッセージ。DPP-4阻害薬の血糖低下作用には一定の効果が期待できるはずなのに、「全死亡、MACE、慢性腎臓病の進行、および心不全による入院リスクの抑制効果」は期待できないという意味にも捉えられる。つまり、これらの抑制効果は血糖低下とは独立したものである、ということになるのだろうか。

その点については「血糖コントロールの効果は検討していない」という記事中の記述に書かれている。

問題点;

・米国でのデータにもとづくGLであり、日本人にそのまま適応していいのだろうか。

・糖尿病による大血管障害は欧米人に比較すれば日本人は少ない。小血管障害の抑制がDPP-4阻害薬で期待できるのであれば、全否定するのはいかがなもだろうか。