2025年1月20日月曜日

米国糖尿病学会「糖尿病の標準治療2025」発表

米国糖尿病学会「糖尿病の標準治療2025」発表

https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/int/202412/586843.html

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米国糖尿病学会(ADA)は2024年12月9日、「糖尿病の標準治療2025」(Standards of Care in Diabetes―2025)を発表した。


第9章「薬物治療」(Pharmacologic Approaches to Glycemic Treatment)では、「成人2型糖尿病の薬物治療」の節で、推奨の多くが改変された。その中で新設された推奨は、以下の項目だ。


・症候性の左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)を伴った、肥満2型糖尿病に対するグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬の投与

・代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)や代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)を伴った肥満2型糖尿病に対する、GLP-1受容体作動薬、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)/GLP-1受容体作動薬、ピオグリタゾンの単独投与、ないしピオグリタゾンとGLP-1受容体作動薬の併用投与

・DPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬ないしGIP/GLP-1受容体作動薬の併用は行わない


最後に挙げた併用の非推奨は、併用してもGLP-1受容体作動薬の単独投与より血糖降下作用は増強しないことを根拠としている。


また第9章では、「全ての糖尿病の人に対する追加の推奨」(Additional Recommendations for All Individuals With Diabetes)と「特別な状況と集団」(Special Circumstances and Populations)が、新たな節として追加された。


「全ての糖尿病の人に対する追加の推奨」の節では、以下の項目が推奨された。

・基礎インスリン投与量の過剰が疑われた場合の対応

・強化インスリン療法を行う場合のグルカゴン処方

・糖尿病治療の妨げとなる可能性がある経済的障害の評価

・経済的障害がある患者における安価な薬剤の考慮


特別な状況と集団」の節では、以下の項目が推奨された。

・FDAが承認していない配合薬の使用の非推奨

・供給不足などにより薬剤が入手できない場合の対応

・挙児希望者に対する妊娠前の糖尿病管理に関する計画立案

・糖尿病性ケトアシドーシス発症のリスクがある糖尿病患者への指導


高血圧の診断基準・治療目標は130/80で変わらず

「心血管疾患とリスク管理」(Cardiovascular Disease and Risk Management)では、まず血圧管理に関して、血圧を測定する間隔が、「毎回の受診」以外に「少なくとも6カ月間隔」との条件が加えられた。

糖尿病合併高血圧の診断基準は2024年版と変わらず、収縮期血圧130mmHg以上または拡張期血圧80mmHg以上だ。

降圧目標値も、130/80mmHg未満で変更はない。


高血圧に対する薬物治療の中では、妊娠の可能性がある人などに対して、ACE阻害薬、ARB、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、直接レニン阻害薬、ネプリライシン阻害薬の投与を避けるべきとの推奨が新設された。


脂質異常症に関しては、妊娠中または妊娠の可能性がある人に対する薬物治療についての推奨が、2024年版よりも詳細な記載となった。


また、高トリグリセリド血症として何らかの対応を考慮すべき基準値が、2024年版では絶食時・非絶食時にかかわらず175mg/dL以上だったが、2025年版では絶食時150mg/dL以上、非絶食時175mg/dL以上に分けられた。

加えて、スタチン投与患者にエイコサペンタエン酸(EPA)の追加を考慮するトリグリセリド値の下限が、135mg/dLから150mg/dLに引き上げられた。


動脈硬化性心血管疾患については、細小血管障害などがある糖尿病患者に対して、末梢動脈疾患(PAD)のスクリーニングを推奨する年齢が50歳以上から65歳以上に引き上げられたほか、同様にPADのスクリーニングを考慮する条件が、糖尿病の罹病期間10年以上かつ心血管疾患高リスクと厳格化された。


症候性HFpEFを合併した肥満2型糖尿病に対するGLP-1受容体作動薬の投与が、新設された。


これ以外にADAでは、注目すべき改訂点として、

(1)インスリン療法を行っていない成人の2型糖尿病患者に対する持続血糖モニター(CGM)導入、

(2)体重目標達成後の減量に関する薬物治療の継続、

(3)1型糖尿病ないし糖尿病性ケトアシドーシスのリスクがある糖尿病患者における大麻の使用、

(4)植物由来の蛋白質や食物繊維も含めた、エビデンスに基づいた食事パターンを推奨するための幅広い栄養指針

──などを挙げている。

2025年1月14日火曜日

ヒトメタニューモウイルス→「みんな一度はかかってる」

ヒトメタニューモウイルス→「みんな一度はかかってる」(2025.1.8)https://news.yahoo.co.jp/articles/e4b97524c2db5969747ee740c30d40506ba5d3cc

・ヒトメタニューモウイルス (human metapneumovirus: hMPV) は、2001年にオランダで発見されたウイルス。20年以上前に見つかっているウイルスで、実際はもっと昔から世界中に広がっている

・一般的には「風邪を起こすウイルスの一つ」として私達はとらえている。日本でも毎年のように流行がおこっている。時々比較的大きな流行が起こることあるが、決して新しく出てきたウイルスではない。

・一番近いウイルスは「RSウイルス」。小児や高齢者が感染すると重症化することがあるが、年長児より大きい子供や大人であればかかっても「ごく軽い風邪程度」という病気。ヒトメタニューモウイルスはRSウイルスと同じようなウイルス。


・症状のほとんどは普通の風邪症状で、せきや鼻水や熱など。ごくありふれた病気で決して珍しいものではない。


・RSウイルスは2歳未満でかかることが多いが、ヒトメタニューモウイルスは大体小学校に入るまでに、ほとんどの子どもは一度は感染する。


・ただ一度感染すれば2度と掛からないという病気ではないので、繰り返し何度もかかる。2回目3回目となっていくにつれて、だんだん軽くなって来るし、症状がほとんど出ないこともある。ただし、小さな子供やお年寄り、元々肺に病気を持っている人などの場合、重い病気を起こすことがあるので注意が必要。


・いま北京当たりで流行しているとの報告がある。これが新型コロナのようにパンデミックを起こすかも―という心配はいまのところ全くないと思われる。北京の状況も、小さな子供たちを中心に流行していて、大人の感染はほとんどない。


・新型コロナでも、さらにさかのぼって、2009年の新型インフルエンザでも、新しいウイルスで誰も免疫を持っていなかったから、子供からお年寄りまでみんなが感染した。そういうものがパンデミックを起こす。


・今回のヒトメタニューモウイルスがもし何か大きな変異を起こしているということであれば、大人もみんなかかっていると思われる。流行しているとは言っても小さな子供達が中心なので、よくあるヒトメタニューモウイルスが、この数年の中では大きな流行になったなということが取り上げられている、ということだと思われる。


・新型コロナウイルスの時の様に、「中国から何か流行ったぞ」、「パンデミック起こすかもしれない、春節で中国人が日本に来るけど大丈夫なのか?」ということを心配する理由は現時点では全くない。


・元々日本にもあるウイルスなので、新たにやってきたからと言って、それが大きな影響を及ぼすということは考えにくい。


・感染予防対策はインフルエンザも、新型コロナも、RSウイルスも、ヒトメタニューモウイルスも同じ。基本は「三密」を避ける。これが、ほとんどすべての呼吸器感染症を防ぐ基本だ。神経質になる必要はないが、小さな子どもや持病を持っている人、かかると重症化する恐れのある人たちに関しては、感染対策の基本を守って欲しい。

(長崎大学 森内 浩幸 小児科教授)

2025年1月2日木曜日

陽性的中率が低い、がんを調べる線虫検査

がんを調べる線虫検査…多施設調査で分かった陽性的中率の低さ

https://news.yahoo.co.jp/articles/75d81ddcd749eec61692f7a4fe87a4532317cd83

(2024.12.21 )

中川恵一/東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授

(記事の内容は一部改変)

がんを調べる検査はさまざまだ。X線やCT、MRI、超音波などから、最近は血液や尿での手軽な検査を打ち出しているものも登場してる。

そんな中、線虫を用いたがん検査「N-NOSE」を巡って、多施設調査の結果が発表された。

N-NOSEは、線虫ががん患者の尿のにおいに反応する性質を利用し、早期から15種類のがんをA~Eの5段階にリスク判定する。「D~E」は「がんリスクが高い」とされるが、どの臓器かは分からないため、判定された人は別の病院などでCTやPETなどで再検査を受けることになる。


ところが、N-NOSEで高リスクでもPETでがんが見つからないことが相次ぎ、研究チームがPET検査と比較する全国調査を行い、その結果がまとまった。結論からいうと、N-NOSE高リスク判定者のうち15種類のがん発見数は10人で、「陽性的中率」は0.95%だった。


今回のPET検査はN-NOSEで高リスク判定を受けた人で、一般の集団よりがんリスクが高い人が集まっていると想定されるが、1%を下回る陽性的中率は低い数値で、その点を調査結果をまとめた論文でも指摘している。論文の結論は、検診としての有効性は限られるということだった。


それなのにN-NOSEを展開するHIROTSU社が「一次スクリーニングとしてのN-NOSEが有用である」と主張しており、大いに疑問が残る。むしろN-NOSEは、「本当はがんではないのに高リスクと診断した偽陽性」が大部分だったのだ。


調査に加わった日本核医学会PET核医学分科会も、HPでこのことを指摘し、「がんのスクリーニング検査には該当しないと考えられる」と好評した。

そして、論文では、「この調査結果は仮に線虫検査で高リスクと判定されても、必ずしも『担癌状態(体にがんがある状態)にあること』を意味しないことを再確認させる結果でもある」としている。